「すっげ、美味い。俺こんな美味い春巻き食ったの初めてかも」

真っ正直な壱弥の賞賛に七恵は頬を僅かに高潮させて姫華の制服のスカートをちょいと引っ張った。

「いいお嫁さんになれるよナナは。芽衣も見習えば?」

「うるさいー。ヒメだって料理できないじゃん」

「私はする必要がないからいいの」

「うっわ。これだからお嬢様は」

「あら、芽衣。そんな事言っていいんだ?せっかくうちの新しいエステに連れてってあげようと思ってたのに。ま、べつに私はいいけど。どうせいつ行ってもタダだし。なんせオーナーはママだし」

「えー!うそー!行く!行きたいですー!お願い、連れてってー」

「どうしよっかなー」

「ヒメー!」

縋る子犬みたいな潤んだ目で見詰められ、姫華はつい吹き出した。

「芽衣はほんと単純で可愛いわー。大丈夫、ちゃんと今日の夕方で三人分予約してきたからさ。ナナも行くでしょ?」

「あたしもいいの!?やったぁ!ヒメ感謝!」

「おう。足向けて寝るなよ」

「姫華、それちょっと違くない?」

どこか置いてきぼりをくらったような気分で壱弥が呟くと、芽衣が「わあ。イチが拗ねてるー」ときゃはきゃは笑いながら思いっきり寄りかかった。
小さい体が収納されたみたいに壱弥の腕の中にすっぽり納まる。
芽衣の緩く巻かれた黒髪が、夏服から伸びる壱弥の二の腕を掠めてくすぐったい。
目を細め、頼りない首から肩を通って腕に腿へと視線を流し、「色白すぎ」と呟いた。

「は?なに急に。わたし?」

「うん。芽衣ちゃん色白すぎ。痕つけたくなる」

「うわー!えろだ!こいつエロだよ。さいてー」

「でもわかるー!あたしも芽衣の肌なら痕つけてやりたくなるもん」

「うぇー!?ナナ頭だいじょぶか?」

「つければいいんじゃない?だってどうせもう彼氏と別れてるんだし」

「だ、だだだっだめです!」

「はーい、大人しくしようねー芽衣ちゃん」

「やだ!ばか!イチさいてー!さわんなっ!ちょ、だめだって…ほんと、無理なの!きょ、今日告白しにいくんだから!!」

「はい?」