「こら。人のケータイ勝手に見るもんじゃありません」

「えぇー…いーじゃん」

「よくないの」

「けちぃ」

拗ねてぷいとそっぽを向いた芽衣が可愛くて壱弥の頬が緩む。

どうしてこんなに可愛らしいのだろう。もしかしたら自分の目には盲目的に芽衣が可愛く見えるフィルターでも付いているのではないかと馬鹿な思考に走るくらい芽衣はいつも可愛くて、壱弥は困る。

ちらりと壱弥を窺う芽衣の細い二の腕を掴んで、腕の中に抱き込んだ。

「拗ねない拗ねない。可愛いのが台無しっしょ」

腕の中でもそもそ動く芽衣の感触を堪能しながら、機嫌をとるために壱弥がメールの内容を口にした。

「メール、姫華から。ここで待ってろってさ」

「それだけ?」

「あと、母さんが晩飯はどっか食いに行けって」

「あとは?」

「あとは…真鍋のが」

開くからちょっと待てと壱弥が芽衣にも見えるようにやや下にケータイをさげて画面を開く。と、タイミングよく壱弥の肩がバッシーン!と叩かれた。

「いってぇ!!」

「だ、だだだいじょうぶ、イチ?」

破裂音のような激しい音に、芽衣が目を白黒させて慌てた。壱弥は肩を抑えたまま体を微妙に丸めて痛みに耐えている。
しかしそんなことなどどうでもいい男、真鍋はにこにことわざとらしい笑顔で壱弥の正面に回った。

「メール読んでくれた?な、読んでくれちゃった?」

「いってぇんだよ、真鍋!今開いたばっかだっつの!」

「あ、まだ読んでねーの。ふーん。あ、っそう。んじゃ、口頭でいいや」

「アァ?」

「今日、負けた」

何が?とは聞かなかった。壱弥も芽衣もそこまで馬鹿でも鈍くも無い。

「あ…サッカーのはなし?」

「おう。お前が抜けた後に倉澤に二点も入れられて、試合終了。おかげで俺は明日から一週間水谷の雑用係だ」

がくりと肩を落とす真鍋に壱弥が「あー…」と、なんともバツが悪そうに遠くを見た。