* * *
がやがやと騒がしいクラスメイトの一陣から離れ、言うなれば少年と青年の丁度中間位置にいるだろう年頃の男が廊下を歩いていた。つい先程のサッカーで自チームの勝利を喜ぶ賑やかな団体を、歳のわりに冷め切った瞳で見送り、一文字に結ばれていた薄い唇を緩く開いた。
「鬱陶しいな」
なにが。というわけではない。賑やかな喧騒も、この重たい体も、鈍くなっている思考も、何故体育の後に古典なんだという時間割も、言うなれば全てが鬱陶しかった。
「絢人」
謡うような響きを含んだ静かで柔らかい声に、絢人が足を止める。頭から顔から首と、サッカーの後の汗を拭っていたタオルを除けて視線を上げた。
「なに?」
無表情のまま問うと、声をかけてきた少女は形の良い眉を寄せて絢人を睨んだ。ひどく不機嫌そうなその表情に、思い当るふしがない。しかし次に少女が口にした名前に、なるほどと納得する事になる。
「なに?…じゃないわよ。貴方、華原芽衣に気でもあるわけ?」
「ああ、華原芽衣ね。あれ結構可愛いな」
華原芽衣。という名前に絢人が何かを思い出したかのようにくっと含み笑った。それがまた気に食わなかったのか、少女は更に険しい顔になった。
「可愛くないわよあんな女」
普段の少女の声からは想像がつかない程の肝が冷えるような低音に絢人が目を細めた。
「初音。その顔はいつもの清楚可憐な里中初音らしくないよ。気をつけて」
「……」
無言になった初音に絢人が一歩近付く。
きゅ。と耳障りな音が響いた。
がやがやと騒がしいクラスメイトの一陣から離れ、言うなれば少年と青年の丁度中間位置にいるだろう年頃の男が廊下を歩いていた。つい先程のサッカーで自チームの勝利を喜ぶ賑やかな団体を、歳のわりに冷め切った瞳で見送り、一文字に結ばれていた薄い唇を緩く開いた。
「鬱陶しいな」
なにが。というわけではない。賑やかな喧騒も、この重たい体も、鈍くなっている思考も、何故体育の後に古典なんだという時間割も、言うなれば全てが鬱陶しかった。
「絢人」
謡うような響きを含んだ静かで柔らかい声に、絢人が足を止める。頭から顔から首と、サッカーの後の汗を拭っていたタオルを除けて視線を上げた。
「なに?」
無表情のまま問うと、声をかけてきた少女は形の良い眉を寄せて絢人を睨んだ。ひどく不機嫌そうなその表情に、思い当るふしがない。しかし次に少女が口にした名前に、なるほどと納得する事になる。
「なに?…じゃないわよ。貴方、華原芽衣に気でもあるわけ?」
「ああ、華原芽衣ね。あれ結構可愛いな」
華原芽衣。という名前に絢人が何かを思い出したかのようにくっと含み笑った。それがまた気に食わなかったのか、少女は更に険しい顔になった。
「可愛くないわよあんな女」
普段の少女の声からは想像がつかない程の肝が冷えるような低音に絢人が目を細めた。
「初音。その顔はいつもの清楚可憐な里中初音らしくないよ。気をつけて」
「……」
無言になった初音に絢人が一歩近付く。
きゅ。と耳障りな音が響いた。
