小悪魔は愛を食べる


手の中で缶ココアを転がしながら泣き言を言い始めた芽衣に姫華が遠い目をして、サボればよかった。と溜め息雑じりに口に出した。

「つーかさ、社がいくら水谷と出来てるからってこれって職権乱用ってやつじゃない?恋人応援したいならプライベートで勝手にしろっての。生徒巻き込むんじゃねーよ」

「うぅ…あつくてしぬ…」

ひからびてしぬ。と呻く芽衣を宥めながら姫華が折りたたみ式のケータイをパカパカ開けたり閉じたりする。これはイラついている時の姫華の癖だった。
というのも、芽衣の着替えに付き合い体育館に戻ると、里中初音がいた。里中しかいなかった。

場所間違えたか?と思ったのも一瞬で、姫華が聞くより先に口を開いた里中の話によると、今日の体育は急遽男子のサッカーの応援に切り替わって、教科担任の社はすでに他の生徒を連れてグラウンドに向かったとのことらしかった。

教えるためにわざわざ待っていてくれたのかと姫華がお礼を言うと、里中は「気にしなくていいよ」とやんわり微笑んだ。

「じゃあ先に行くね」と体育館の扉を押し開いて出て行った里中を見送って、「サボる?」と姫華が聞くと意外にも芽衣は「行く」と答えたのだった。

普段暑さも寒さも苦手な芽衣は屋外の体育には絶対出ないのに、どういう風の吹き回しかと訝しんだ姫華だったが、芽衣が行くというのなら行くかと手を引いてここまで来たものの、現在の状況にやっぱりサボるべきだったと既に後悔の念が押し寄せてきていた。