小悪魔は愛を食べる



「あっれ?倉澤、眼鏡してなくね?」

背後から聞こえた声に「そっか」と頷く。
お堅い優等生という倉澤のイメージを強固なものに築き上げる素敵アイテムであるメタルフレームの眼鏡がなかったのだ。
どうりで違和感あるわけだ。
一人で変な関心をしていると、話し終わったらしい真鍋が壱弥に向かって走ってくる。ついでに選抜したメンバーに声をかけ、「お前FWな!」などと指示してしまっているのが真鍋の抜け目無いところだった。

「壱弥はDFでいいよな?」

「真鍋は?」

「GK」

「楽する気だな、お前」

「うん。頑張って俺を守れ壱弥」

ゴールではなく俺というところが実に真鍋らしい。

「お前が芽衣くらい可愛かったら考える」

「ひどーい。私よりあんなじゃりんこがいいって言うの、あなた」

しなを作って愉快そうな真鍋に壱弥も笑う。

「そのネタきもい」

「うるせ」

軽口を叩いていると、二人とは反対側のゴールから水谷の大声で「こらー!真鍋!瀬川!はやくポジションにつけー!!」と怒鳴られた。

「なんかさ、ぜったい水谷が一番楽しそうだよな。サッカーん時」

「俺もそう思う」

呆れた声音の真鍋に答えながら、壱弥はFWの位置に立っている倉澤をみた。
あいつ、スポーツできんのか?
壱弥の疑問を他所に、水谷のホイッスルがグラウンドに響き渡った。