小悪魔は愛を食べる



壱弥に比べるとやや低めにある真鍋の頭をからかい半分でぐしゃりと押し下げると、腹部に加減された力でボディブローが入れられる。

この真鍋宗佑と壱弥は入学当初に壱弥が彼の生徒手帳を拾ったことから始まり、成績やコース選択によって一年毎に変わるクラス編成でもずっと同じクラスという縁で結構仲が良い。

真鍋は基本的に誰とでも仲良くできる壱弥と違い、頭が良く人を見下す節があるため一部からは敬遠されているのだが、気難しい人間の扱いには芽衣で慣れてしまっている壱弥はそこまで気にならないし、何より真鍋は芽衣を女の子として見ていなかった。

今まで壱弥に寄ってくる友人というのは多かれ少なかれ芽衣に好意を持っている男が大半で、「芽衣ちゃん紹介してくれない?」というフレーズとともに壱弥を通り過ぎていくのが普通だった。

べつにそんなのに一々腹を立てるほど狭量ではないつもりだが、やはりいい気分はしなかった。

しかし、真鍋は芽衣を紹介してくれだとかそういう事は一切言わないし、もし好きになったとしても壱弥に頼むより先に自分で近寄っていく。そんな性格だ。
勝負事に熱くなりやすいのに、常に冷静で、引き際が潔い。こういうところは姫華に近いかもしれない。

なるほど。いい友人だ。

壱弥が納得したところで、水谷が真鍋と倉澤を呼んだ。
「なんだ?」と駆けていく真鍋とは対照的に倉澤は落ち着いた足取りで歩み寄っていく。足が長いせいか小走りで駆けていった真鍋と丁度同じタイミングで水谷の前に着いた倉澤に、壱弥は「嫌味なやつだな」と口の端で笑った。

同時に、倉澤に奇妙な違和感を感じて首を捻った。