小悪魔は愛を食べる

命の上?命の犠牲の上に、という意味だろうか。
たしかに、生き物は生きるために食べる。それは草であったり、肉であったり、とにかく生命を食べる。生命を食べて生きていく。
考えてみると、生命は結局の話、食うか食われるかでしかなく、弱肉強食であり、誰もが獲物で捕食者だと、そういうことか。
案外、そう考えるとひどく簡単な図式で、真鍋は我知らず頷いた。

「生きてたらさ、いっぱい命踏みつけて生きてるのに、自分だけ可哀想とか、被害者だとか、そういうの、ずるいと思うんだよね、なんとなく。…たまたま、この間はわたしが傷つけられたけど、わたしは今までもっとたくさん傷つけて生きてきたし、これからもそうやって好き勝手やって生きていくし、だから、こういうのから逃げたら駄目なの」

饒舌だと思う。いやに、饒舌だ。もう一度、芽衣が腹部を撫でさすった。

「この痣はね、わたしが自由に生きてきた責任で、証拠なの。消えなかったら、消えなくてもいいんだ。ただ絶対嫌なのは、関係ない人たちに、傷つけられたって同情されること。これはね、わたしの問題で責任で、そこには誰も踏み入っちゃ駄目。それは、ルール違反だから」

強い、力のある瞳から真鍋はそっと目を逸らす。直視するには、潔すぎて、耐えられなかったのだ。

「お前さ、オトコだな」

「女だよ」

「ばっか。カッコいいつってんの」

「もっと言い方あるじゃんか」

「ない。お前みたいな野性味溢れるやつは女じゃない」

「失敬な!」

がたんと音を立てて立ち上がった芽衣に真鍋が笑うと、いつの間にか窓枠に腰掛けた壱弥がうちわをぱたぱたさせながら、口元を歪めた。

「仲いいな、お前ら」

「よくないよ!!」