無造作にジャージを床に放って、ルイ・ヴィトンの財布から百二十円を百円玉一枚に十円玉二枚、指で摘んで暗く口を開けたコイン投入口に一枚ずつ押し込む。
小気味良い音が三度し、表示が120円を示した。
ココア缶の真下のボタンが青く光って押して欲しそうに待っている。
人差し指で一度、強くそのボタンを押すと、鈍い機械音がして、すぐにガコンと足元で缶が落下して受け取り口の箱の底にぶつかった。
屈んで手を入れ、冷たい缶を握る。ココアの甘さを舌が思い出したのか、じんわり唾液が口の中に滲み出た気がした。
しかし、掴み出した缶のラベルを見た途端、芽衣は自分の目を疑った。
「……こーひー?」
手の中の缶と、自販機の中のココアを見比べる。確かにココアの真下のボタンを押したのに。何故か芽衣の手の中の缶は、目的のココアではなくその隣の無糖缶コーヒーだった。
頭に疑問符を浮かべた芽衣が首を傾げて立ち尽くしていると、突然背後から「邪魔なんだけど」と声がした。
「え」
「そこに立ってると邪魔」
振り返った芽衣は思わず一歩退いた。眼前に男子の指定ジャージが広がっていたのだ。顔を上げて声の主を見上げると、シャープな顎のラインから日に焼けてない首が見えた。つまり顔が見えないくらい近くにいるのだと気付いて、慌てて芽衣が自販機の横に退く。
すぐに小銭が機械の中に流れ落ちていく音がして、ガコンと缶が受け取り口の中に雪崩れた。
