「ねーナナ。わたしのイチゴタルトのイチゴ一個食べる?おいしいよ?」
パジャマを着直し終わった芽衣から、イチゴが差し出される。ぱくりと口の中に含んで噛み潰した。甘酸っぱくて、奥歯の方からじんわり痺れて唾液が溢れた。
「おいしい?」
「甘酸っぱい」
正直な感想に芽衣が笑う。可愛い可愛い笑顔が咲く。つられて七恵も下手な笑顔になった。
きっと芽衣は子供のまま、母体の胎内から出てこようとしない赤子のように、ここから一歩も踏み出さない。壱弥がいる限り、きっとそれは死ぬまで、ずっと。
思い合う二人が寄り添うことが素晴らしいなんて、いったい誰が言ったのだろう。
だって今、寄り添うことはこんなにも悲しくて、切ないのに。
「甘酸っぱ過ぎて涙出そう」
「うそー!そんな酸っぱい?」
口の中のイチゴはぐちゃぐちゃ。
原型を失った赤い実を飲み込んで、七恵は微笑した。
今度は上手く、笑えた気がした。
