呆れ半分で、わざと大きな音がするようにドアを開ける。予想通り瞬時に視線が集まった。けれどすぐにそれは逸らされ、会話が続行した。

「わたしイチゴタルト!それかショートケーキ」

「んじゃ私はガトーショコラで」

「えと、あ、あたしは残ったのでいーよー?」

BGMはホラー映画のヒロインの悲鳴。床やベッドの上に散乱する服や靴に化粧品のサンプル。その中で円を作って箱の中のケーキを配分している少女達。
ほんの数分の主の不在中に、壱弥の部屋は本来とは全く別の空間になりつつあった。

「お前ら…何しに来たわけ?」

後ろ手にドアを閉め、言う。
言われた姫華と七恵は各々たいへん可愛らしく「学校サボってお見舞い?」と小首を傾げてみせ、壱弥が内心頭を抱えた。可愛いと思ってしまった自分にむかついたのだ。

「で、ケーキは分かるけど、なにこの服とかサンプルは」

気を取り直して問うと、姫華がガトーショコラをフォークで削りながら答える。

「ああ。ママが持っていけって。うちのママの会社の新作コスメのサンプルと、こっちのワンピは芽衣が欲しがってたブランドの新作。で、こっちの靴が同じブランドの試作品で、まだ市場に出るかも未定のレアモノ」

姫華の人差し指に導かれるがまま、壱弥がひとつひとつ解説を理解していると、おもむろに芽衣がパジャマのボタンを外し始めた。

「め、芽衣!?」

七恵が驚いて手で顔を覆う。思春期の男の子のような反応に、芽衣の笑い声が響いた。

「なにー?ちゃんとキャミ着てるから普通に見ててもいーよ?」

「あんたには恥じらいとかないわけ?」

「あったらこんな人前で着替えないだろ」

「イチもヒメもナナも他人じゃないから平気だよ。恥ずかしがる方が変じゃない?」

「うーん、一理あるような、ないような…」

「ねぇだろ」

納得しかけた壱弥に姫華が突っ込む。そこで漸く七恵が覆っていた手を外して芽衣を見た。芽衣の状態はキャミとパンツだけで、丁度新作のワンピに脚を通したところだった。