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人気の少ない旧校舎にある購買から新校舎へと続く廊下に、キュ。キュ。という足音が響く。
どうやらあまり日の光の当たらないこの廊下の床は湿り気を帯びているらしく、ともすればこの子供のサンダルのような足音は必然的に生じてしまう仕方の無いものなのだが、芽衣には耳障りなのか、やたら歩き方や速度を変えたりと、なんとか音を消そうとする若干覚束ない足取りで体育館を目指していた。
階段の前まで来てようやく足音が幾分かましになり、芽衣はむっと引き結んでいた唇を緩く開けて息を吐き出す。
自然と呼吸を制限してしまっていた事に今更ながらアホらしいと思った。
体育館は階段を登らずに直進した先だ。
もう一分もかからない。と、不意に喉が渇いている感覚が芽衣の視線を彷徨わせた。
階段の下にひっそりと置かれた自販機に、最近お気に入りの銘柄のココアを発見し、小走りで暗闇の中無駄に電気を消費して光っている四角い機会の前に駆け寄る。
すると突然、キーンコーンカーンコーンという聞きなれた音が廊下やら階段やらで反響し、瞬間びくりと芽衣の薄い肩が上がった。
「予鈴…かな?」
芽衣は購買から受け取ったばかりのジャージを両腕で抱えた不自由な格好で、自分の左手首に巻かれたブルガリの腕時計をみる。
時間を確認し「あと五分か」と空気を震わせるだけの声にならない程度の声で呟いた。
