「怪我は?」

「ないよ。元気だよ」

「そっか。よかった…本当に、よかった」

芽衣の体に姫華が抱きついた。身長では比べる必要もないくらいあきらかに姫華が高いのに、それでも芽衣に姫華が縋っているように見えるのは、きっと精神的なもので。

「もう。ヒメは心配性だなぁ…わたし実はすげー強いよ。筋肉もりもりだよ。壱弥に腕相撲で勝てるもん」

「ばか。変な冗談言ってんなよ」

「あははっバレた」

ぽんぽんと姫華の背中を撫で叩いて、芽衣が体を離す。姫華も大人しく倣って、壱弥に向かって「愚図。まじ使えねぇ」と暴言を吐いた。

壱弥が苦笑して、芽衣が能天気に声を上げて笑う。

改めて、七恵は芽衣をすごいと感じた。自分が怖い目にあったのに、芽衣はこうやって笑えるんだと、涙が零れそうだった。

「華原さん」

初音が芽衣を呼んだ。

芽衣が顔を上げて初音を見る。視線が交わった次の瞬間、芽衣がここにきて一番の笑顔で初音の名前を呼んだのだ。「なぁに、初音ちゃん」と。