小悪魔は愛を食べる




「ん?だって、あんな可愛いのに好かれて嫌がる男なんて同性愛者か聖職者くらいだろ」

それは客観?それとも主観?

なんでもないように屈託なく笑う壱弥の少し軽薄そうで柔和に整った顔を見上げながら、七恵は思う。
そしてもし一度でも開いてしまったら、迷わず訊いてしまいそうな唇を、一度強く噛み締め、次に緩く開く。

「壱弥はほんとうに、芽衣が好きだね」

良かった。まだ、嫉妬してない。良かった。自分の声音に嫉妬が滲んだら、この友人としての地位すら失ってしまう。七恵はそれが一番怖かった。

自分のくだらない嫉妬で、壱弥を失う事も、芽衣を失う事も、怖くて怖くて、だから、七恵は安堵に小さく息を吐き出した。

「七恵も、芽衣好きでしょ?」

「うん。大好き」

ドアの向こうで姫華が「ナナもイチも今更なこと言ってんなよ」とぶっきらぼうに照れくさそうに微笑んだ。

性格も趣味も育ちも全然違う三人がこうやって一緒にいられるのは芽衣がいるからだと、知らないのは芽衣だけで、壱弥も姫華も七恵も気付いている。

芽衣がいなければ繋がらない、他人から見たら虚しい関係に、それでも縋ってしまうのは、四人の空間があまりに心地良いせいだろう。

だから余計に、芽衣を傷つけようとする人間が許せない。怒るなら心変わりした男を怒ればいいのに。

強く握られた七恵の掌の肉にオレンジ色の付け爪が食い込んだ。