「それじゃ、ちょっと購買まで行ってくる。直接体育館向かうから、イチ、わたしの荷物よろしくね」
「りょーかい」
座っていた壱弥の膝から立ち上がり制服のスカートの裾をぱんぱんと軽く払うと、すぐ真横の非常階段と校舎を繋ぐドアから芽衣は中へ戻っていった。
残された三人は暫く無言で黙々と残った弁当の中身を食べ、先に食べ終わった姫華が沈黙を破って口を開いた。
「芽衣のジャージ、盗まれたんだよね。そんで今日の朝、下駄箱に赤いマジックで「淫乱」とか「尻軽」とか「シネ」って書かれて切り刻まれて戻ってきたわけ」
「なっ、なにそれ!ひどい」
「いやいや、仕方ねーだろ。芽衣恨まれてるし。それにあいつも慣れてるし」
「そういう問題じゃないじゃん。ひどいよ」
まるで自分の事のように泣きそうな顔でぼそぼそと七恵は喋り出した。
「芽衣はさ、淫乱でも尻軽でもないじゃん」
「うん」
壱弥が大きく頷く。姫華は自分の弁当箱を鞄にしまい終わり、芽衣の弁当箱を片付け始めていた。
「だって、芽衣は付き合ってるのにキスもさせないでポイするって有名じゃん」
「う、うん?フォローなってないよね、七恵さん」
「芽衣は…、芽衣は……やさしいよ」
「うん。芽衣は優しいよ。だから俺も姫華も七恵も、芽衣と一緒にいるんだろ」
ぽんぽんと七恵の頭を撫でてやりながら壱弥が小さい子に言い聞かせるように言ってやる。しかしそれが不味かったのか、七恵の涙腺が決壊し、大粒の涙がハムスターを彷彿させる七恵の真ん丸い目から流れ出した。
「あーっもうっむかつくよ!腹立つ!直接言ってくればいいじゃんか!なんでそういう嫌がらせすんのさ!むかつくよ!なんなの!もうやだ!芽衣が何も言わないのがもっとやだ!!」
「ナナ。あんまり泣くと目腫れる。そしたらなんで泣いたか芽衣に聞かれるよ。嘘吐くのも吐かれるのも、芽衣は嫌いだよ」
