~Thihiro~
部屋を出ても特にする事はなかった。
(夕実たちは考えすぎだった。)
「おぃ!一人かよ。」山崎が近づいてきた。
あたしは目をそむけた。
「あっ、まだ根に持ってんのか?演劇準備の時のこと。」
ひひひっと山崎は笑う。
「でも、お前の事件はお前の父親が
死ぬか自粛しなきゃ解決しないだろうけどな。」
なにも知らないくせに。
「また浅見さんをいじめてるの?」
目の前からいちごミルクの缶を
両手に一缶ずつ持った南葉くんが歩いてきた。
「ちぇっ」と舌打ちした山崎は部屋のほうへ戻っていった。
「はい、いちごミルク。」
階段のてすりに寄りかかると缶を一つ渡された。
「なんで…」
「えっ、山崎に頼まれたんだけど飲まないみたいだから。」
いや…いちごミルクの事じゃなくて・・・
あたしが納得がいかない顔をすると南葉くんはそれに察した。
「あっ、もしかして、なんで自分にかまうの?って?」
うなずくと南葉くんはいちごミルクを一口飲み、微笑んだ。
「前に言ったとおりだよ。」
前・・・ああ、あの遊園地のときの…
喫茶店の帰り、あたしは今と同じような質問をした。
そのとき彼は、静かにこう言った。
≪大切な人を大切な時に見放しちゃったんだ。
それ以来、困っている人を見るとほうっておくのが辛い。≫
その言葉
その横顔
くっきり蘇る。



