彼は半ば無理矢理、私に傘を渡すと、その場から走り去っていった。 不思議な人。 変な人。 優しい人……。 私は見えなくなっていく彼を渡された傘を持ちながら、ただずっと見つめていた。 名前も知らない彼。 スーツ姿だったから、きっとどこかのサラリーマンだろう。 どこか若さが残っている雰囲気。 さっきまでの悲しい気持ちが、スッと、消えていくようだった。 また、会えるんだろうか。 その日からずっと、私は彼のことばかり考えていた。