「いいよ。ありがとう」
 リュウは礼を言った。安易にありきたりな言葉を掛けられるよりはよっぽどよかった。マキオには途方もなく長く感じられたほんの数十秒間の空白がリュウを充分に理解させた。
 2人は黙ってまた歩き出した。リュウの感謝がマキオには痛かった。繰り返される素朴な自問――友達だったら……友達だったら……友達だったら……――マキオが辿り着いた素直な回答――
「リュ、リュウさん。また、レノンに行きましょう」
「オマエなぁ、敬語はやめろって言ったろ?
殺すぞ。リュウでいいよ、リュウで」
「リュ、リュウ」
「ああ、また行こうぜ」
 リュウのいつもの調子にマキオは救われた気がした。
「またな、マキオ」
 2人は駅の構内で別れた。
「またね、リュウ」
 2人は約束をした。日時も場所も決めず、お互いの連絡先も知らないまま、2人は約束をした。2人はわかっていた。重なる偶然が必然であることを、もう、お互いに“共通の場所”があることも、2人にはわかっていた。
マキオは帰りの電車の中で、今日のこの一日に今までの人生の何ヶ月、何年分もの時間が凝縮されたくらいの濃密な時間を感じながら、車窓の景色を眺めていた。これから1年間の出来事を、この先何十年もある人生において、決して忘れることのできないものになるだろうことを知る由もなく。そして、それはもうすでに始まっていることも……。