「でも今ので手ぇ出すことはねぇだろ? マキオも謝ったんだからお前も謝れよ」
「イヤよ。何で私が謝るのよ?」
「オマエなぁ。ちゃんとマキオに謝れよ」
「イヤよ」
「謝れ!」
「イヤよ!」
 このままでは収拾がつかなくなると判断したマダムが割って入った。
「まあまあ。ケガしたわけじゃないんだし、カナちゃんにはアタシのほうから言っておくから。ごめんなさいね、マキオちゃん」
「い、いえ」
「そんなんじゃダメだよ、マスター。カナにはちゃんと謝らせないと」
「まあまあ、ここはアタシの顔に免じて。ねっ」
「ハジメちゃん……」
「ほら、カナちゃん。早く着替えて明日の仕込みしてちょうだい」
「はい」
 カナは素直に返事をして店の奥へと消えていった。
「リンちゃん。ホールお願いね」
「はい」
「あとはお2人でごゆっくり」
「いつもありがとう。マダム」
「いいのよ。今の録音しておけばよかったかしらねぇ」
 マダムはそう言いながらキッチンに戻っていった。マキオはマダムにオトナを感じた。