「おぅ、わりぃわりぃ。さ、行くか」
 男は声を掛けるなりマキオが持っていた袋から中身が散乱していることに気がついた。
「お前、どうしたんだよこれ! 袋の中身散らかっちゃてるじゃんか」
「あっ!」
「誰かにやられたんか?」
「い、いや。さっき人とぶつかっちゃって」
「気をつけろよ。変な人いるから」
 男はそう言うと黙って散乱した袋の中身を拾い始めた。
「う、うん」
(ここにも変な人いるんですけど……)
 男が黙々とそれを拾い集める光景をマキオは黙って見つめることしかできなかった。マキオは男の優しさに少し触れた気がした。
「ほら。これで全部か?」
 男はすべて拾い集めると、それを買い物袋に入れてマキオに手渡した。
(冷やかさないのか? オタクだとかアキバ系だとかって)
「う、うん。あ、あり……」
「よし。じゃあ行くか」
「あ、はい」
 男は足早に歩き始めた。
「早くっ! 置いてくぞ」
「は、はい」
(置いていってくれてもいいんですけど)
 マキオが駆け足で追いつくと、男はマキオの右肩に腕を回してきた。
「もう腹へって死にそう。あそこのクラブサンドは絶品だぜ」
「……」
 マキオはそれを不快に感じながらも、腕を振り払うことも、言い出す勇気もなく男のペースで20分ほど歩かされると、それはあった。
「ここここ。Cafe・LENNON《カフェ・レノン》。で、向かいがライブハウスのstudio・LENNON《スタジオ・レノン》。マスターがジョン・レノンが好きでこの名前にしたんだと」
「へぇ」