「そうか。行くか。よかったよかった。あそこのマスター見たらビックリするぜ。おれはいつもクリームソーダ頼むんだ。あとオススメなのが……」
(えぇぇぇ!? 僕行くの? 行くことになったの? あの“はい”は“YES”の“はい”じゃなくて日本語特有の単なる返事というかなんというか、あの~その~……僕のバカァァァ!!)
 男はその後も終始喋り続けたが、マキオは愛想笑いで答えるのが精一杯だった。マキオは男の話を覚えていない。ただこの現実から逃れること、この時間が1秒でも早く過ぎ去ってくれることを願うことだけに脳を支配されたマキオの祈りをよそに、無常にも電車は吉祥寺駅へと向かうのであった。
(高円寺が過ぎてゆく~)

 人生とは、知性によって生きる者には喜劇、感性によって生きる者には悲劇である。
        ホラス・ウォルポール