父は静かに過去を語り始めた。
「13年前、木嶋が高校3年の時だ。私が彼の担任を務めたのは。成績優秀でスポーツ万能。教師として私が描く理想の生徒だった。欲を言えばただ1つ、彼に足りないものがあった。積極性だ。確証の持てないことに関しては尻込みしてしまう傾向があった。大学進学の時もそうだった。木嶋は早稲田への進学を希望していたが、私は彼なら東大に合格できると確信していた。だから私は東大受験を強く勧めた。早稲田は滑り止めにして東大を受験してみないか? と。木嶋は私の言葉を受けて東大受験を決めた……。結果は不合格……。早稲田の受験は私なりの彼に対する保険のつもりだったが、合格こそすれ入学はしなかった……。それでも木嶋は私にこう言った。〝何年かかっても絶対東大に合格してみせる〟と。しかし、卒業後に通い始めた予備校には次第に姿を見せなくなり、家に引きこもるようになったらしい……」
「……」
「たった一度の失敗が彼の人生を狂わせてしまった。不合格の烙印が彼の人生に大きな重圧となってしまった。いや、それも私のせいかもしれん……。本当は自分の評価を上げたかったんだ。だからどうしても自分のクラスから東大生を輩出したかった。教師のエゴだな。生徒の気持ちも考えずに……。烙印を押したのは私の方だ……」
「……」
 マキオは初めて自分の非を認める父の姿を見た。
「私は怖かったんだ。自分の息子までそうなってしまうんじゃないかって……怖かった。挫折を知らないお前達には確実な道を歩んでほしかった。だからお前の東大受験を反対した。私が尻込みしてしまったんだ……。公平にも真樹夫にも申し訳ないことをした。すまない……許してくれ……」
「父さん……」