マキオは記憶を手繰った。
「新宿駅でリュウを見かけたのは2月13日。吉祥寺でリュウのライブがあったのは3月13日。どちらも金曜日! そして、いずれの日も午後7時頃に僕は高円寺にいなかった……。だから助かった……?」
 それでも腑に落ちない点はいくつかあった。リュウがマキオを高円寺から遠ざけるために意図して3月十13日の午後7時にライブを行ったというのなら、その日マキオに危険が及ばなかったことに合点がいく。しかし2月13日はマキオが新宿駅で一方的にリュウを見かけただけであって2人に接点がない。これでは説明がつかない。その日マキオは電車を高円寺駅で降りずに吉祥寺駅で降り、午後7時にはカフェ・レノンにいた。これはまったくの突発的行動。リュウに予測できるはずがない。それをただの偶然と片づけてしまってよいのだろうか? どちらにしてもこれらの見解を覆すことは簡単だ。
「執拗に自宅前で待ち伏せされていたら……」
 そこから炙り出される犯人像。13日の金曜日と6時66分に異常なこだわりを見せる木嶋という男は超完璧主義者。しかし今回の事件は違う。この男の心境に変化を来す何かが起きた。計画を変更せざるを得ない何かが……。
「なぜ今回の事件に限って11月13日ではなく10月25日に!? なぜ父さんもあの日、あの時間、あの場所に!? どうしてリュウが殺されなくちゃいけなかったんだ!?」
 いくら自分の推測とはいえ、それが現実のものとなることがこんなにも恐ろしいことなんて……。「真実とは本当に知るべきものなのか?」よぎる後悔。走る衝撃。
 マキオは1年前の自分を思い出した。
『裁きを下すのはキミじゃないよ。この僕なんだよ。この社会で唯一、法の下に公然と人を裁くことを許されし者――judge《裁判官》――』
「起きてからじゃ遅いんだ!!」
 マキオは決意した。もうこの運命から逃れることはできないことを。不可避の宿命。
 未完成の“リュウのパズル”のピースがまた一つ――。