2009年4月1日(水)
 早速リュウはケイに電話を掛けた。
「もしもし。ケイ? 久し振りだな」
「リュウ? どうしたの?」
 ケイは病院の敷地内にいた。
「いや、その~……どうだ? そっちは?」
「毎日大変だよ。研修医もラクじゃないね」
「そうか。忙しそうだな」
「そんなこと聞くために電話してきたの?」
「いや、そういうわけじゃあ……」
「じゃあなに? 用がないんなら切るよ」
 ケイの事情は承知している。断られるのも覚悟の上だ。でも、どうしてもこのベーシストが欲しい。リュウは意を決した。
「スライダーズジャイロ、またやらないか?」
「ムリ」
 ケイはあっさり拒否した。だからといって簡単に諦めるわけにもいかない。リュウは食い下がった。
「ショウも! ショウもいるんだぜ!」
「ショウが? へえ~。でもムリ」
 ケイはきっぱり拒絶した。
“神谷せんせ~い”
「は~い。今行きま~す」
 電話の向こうでケイを「先生」と呼ぶ女性の声。看護師だろうか。「そりゃそうだよな」リュウは現状が極めて困難であることを察した。
「もう行かなきゃ」
「ケイ!」
「なに? 時間ないんだから」
 とりあえず呼び止めてはみたものの“ケイ対策”のリーサルウエポンは果たして効果があるのだろうか? リュウは少し不安になりつつも気を落ち着かせた。
「このまま医者を続けんのと俺達とバンドやんの、どっちが“ロック”だと思う?」
 リュウは心臓が強く脈打つのを感じながらケイの答を待った。
「フッ。愚問だな」
 ケイは静かに微笑んだ。