電車を乗り継ぎ、霞ヶ関駅で降車し、旧法務省祝田橋庁舎に足を進める。マキオはうつむき加減で歩きながら、これから始まる理想郷の完成を思い浮かべて自然とこぼれる笑みを必死でこらえた。
(天は人の上に人を造らず? 人は人を裁けない? だったらこの階層社会は何だ? この格差社会は何だ? そう、これが現実だ。諭吉サンには悪いが、せいぜいこの世を憂うがいい。この社会で唯一、法の下に公然と人を裁くことを許されし者――judge《裁判官》――。三権分立、部分社会の法理、統治行為論、司法権の及ばない領域がある中、成分法と同等の拘束力を持つ判例法。司法が立法を凌駕する瞬間。その最たる最高裁の判決。僕は最高裁判所長官の地位まで昇り詰めてみせる。そして、検事さえも弁護士さえも僕の裁きを乞うんだ)
 マキオは足を止めた。そして、ゆっくりと掲示板を見上げた。

 空中楼閣は音も無く崩れ落ちた。