プライダル・リミット

 ショウは受付にいるマスターには目もくれずに通り過ぎようとした。
「観ていかないのか?」
 マスターが声を掛けた。
「あんな演奏じゃ誰もイカせらんねぇよ」
「“せめてそこに自分がいれば”?」
「はっ。冗談だろ? 俺はメジャーデビューを約束された男だぜ? 夢はもうすぐそこまで来てんだ。掴み掛けてんだ。それを何で今さら売れねぇバンドを一からやんなきゃなんねぇんだよ! 俺がここまでどんな想いでやってきたか……アンタにわかんのかよ!!」
 ショウのらしからぬ態度にも臆することなく、マスターは冷静に問い掛けた。
「それがオマエの夢か? それともプライドか?」
「どっちもだよ!」
「ショウ、もっと自分に正直になれよ」
「今さら……今さら戻れねぇんだよ!」
 ショウは背を向けてマスターを振り切ろうとした。
「ショウ! リュウとオマエは同じ味覚だ!」 味の相互作用――相乗効果――同種の味を混合させて味を増すこと。
「ウザってぇんだよ! どいつもこいつも!」
 ショウは自分の中で渦巻く葛藤を憤怒で隠して吐き捨てることしかできなかった。