マキオは初めてのライブハウスに少し緊張しながら入口の扉を開けた。前方には機材が置かれた小さなステージとその両脇に構える大きなスピーカー。ライブハウスという薄暗い密室と独特の雰囲気に萎縮したマキオは最後列で開演を待つことにした。周りを見渡さずとも客足が少ないことはわかる。客席の真ん中には誰もいない。数人の客が無人の空間を囲むドーナツ状。無名のバンドによくある光景だ。リンは……カナと最前列にいた。気づいてほしいようなほしくないような……。