「行くぞ。カズ。」
 ショウは何も言い返さずに店を出ていった。
「あっ、はい」
 カズはショウを追いかけたが、何か言いたそうな顔でこちらに振り向いた。
「カズ」
 リュウはカズの名前を呼んだ。それはまるで兄が弟を想うかのような包容力に満ちていた。
「……」
 カズは何も言えずに店を後にした。
「リュウ、ありが……」
「知ってたのか?」
 リュウが背中越しに訊いた。マキオの言葉を遮ってまでも。それほど今のリュウには周囲が見えていなかった。
「うん」
 カナが答えた。
「なんで言わなかった!?」
「そ、それは……」
 言葉に詰まったカナに代わってマダムが口を開いた。
「それは、言う必要がなかったからよ。もしも2人が運命で繋がっているとするなら、不可抗力が介入せずともいずれまたどこかで出会う。違うかしら? そのことを一番よくわかっているのはリュウちゃん、アナタ自身じゃなくて?」
「……」
 リュウは返す言葉もないまま黙り込んだ。
「リュウ……」
「お兄ちゃん……」
 マキオとカナはリュウの心境を案じた。もうリュウの耳には誰の声も届かなかった。
「くそったれ」
 そう一言呟いてリュウは店を出ていった。
「リュウ!」
 マキオはリュウを追いかけようとした。
「マキオちゃん!」
 走り出したマキオをマダムは呼び止めた。マキオが振り返ると、マダムは首を横に振った。
「マダム……」
 マキオは力なく椅子に腰を落とした。

(リュウ……。このまま会えないなんてことないよね……?)