階段を下りて居間へ行った。
最近は部屋に閉じこもりがちだったから
なんとなく懐かしい気がした。

お母さんは居間でTVを見ながら洗濯物をたたんでいた。
その光景も今では愛しく感じられた。
でも私はその考えを振り払った。

気づかれないように、そっと机に手紙を置く。
気づかれたらきっと何か言われてしまうし、
感づかれてしまっては困る。

「美香、どうかした?」
ふいに後ろからしたお母さんの声に驚いた。
「えっ…ううん、どうもしないよ」
私は急いで冷静を装った。
「そう?何か飲む?それとも何か食べようか」
お母さんが微笑んだ。
私は抱きつきたくなった。
抱きついて泣きたくなった。
でもそんなことする権利はないのだ。
…私は死ぬのだから。

「大丈夫。私ちょっと出掛けるから」
私は涙をこらえながら言った。
「そんなお洒落してどこ行くのかしら~?」
お母さんはふざけたように言った。
私がこれから、何をするのか知らずに…。

「ちょっと駅前のデパートまで」

「そう?早く帰って来なさいよ?気をつけて」

“早く帰って来なさい”
その言葉に私は返事ができなかった。

お母さん、私はもう帰って来ないんだ。
永遠に…。

そう思うと、また泣きたくなった。

「どうしたの?」
お母さんが心配そうに聞いてきた。
「お母さん、ありがとうね」
私はそう言って家を飛び出した。

気がつけば、もう15:00だった。