譲の気持ちを知る友人は、なぜ麻尋なのかと口を揃えて言います。
“は?桐谷?”
“怖いじゃん、なに考えてんのか分かんねーし”
(…お前らが気付いてねーだけだよ、)
あの人、素直になって笑った時すっげーかわいいんだぞ。
その笑顔の威力、まだお前らが体験したことねーからそんなこと言えるんだよ。
彼女の眉間の皺や、少し尖っている唇。
それが改善されたらきっと、麻尋の男ウケは一気によくなるはずです。
「……はぁ」
いつか有り得る未来に譲はひとり、溜め息をつきました。
(ずーっと眉間に皺寄せとけばいいのに。そして、たまにオレだけにデレてくれたらいいよ)
欲望を含んだボールは、勢いよくネットに引っ掛かります。
初歩的なミス。
譲らしくありません。
「……ふ、」
ひとつ深呼吸をして、髪をポリポリと掻きました。
彼女からの痛いくらいの視線は、彼には心地よいものでもあるのです。
その視線に気付いたのは、いつだったでしょうか。
そして視線の持ち主が麻尋だというのにも。
“えっと、キリタニだっけ…なんか、こっち見てね?”
“そーか?”
“しかも、譲ばっか!王子様はモテモテでよろしいですねぇ”
“うーわ…そんなこと言うよっしーはオレ嫌い!”
“わー!嘘!オレ、譲くん大好きよ?”
(…そうか)
―…彼女なのだ。
あの視線と彼女の視線は、どうも熱の持ち方が似ているのだ。
譲は、視線の持ち主がいる図書室を見上げたことはありませんでした。
なぜなら、彼には確証があったのです。
それは、彼自身にもどこから沸いて出たのか分からない自信でした。
自分の思いは、一方的な片思いでは終わらないと。
(…桐谷はオレが好きだ、)
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