“付き合ってくれんの!?え、ほんとに?”



あの時。


嬉しそうな彼に、言葉も出なくなった麻尋は必死で頷きました。




ほんとは自分もすごく嬉しい。


この世の幸せを、一気に手に入れてしまったみたいだ。




“じゃあさ、携番とアド!教えてもらってもいい?”


“……べつにいいけど”




ほんとはわかっているのです。



今まで、彼にどれだけ冷たくしてきた自分でも好きになってくれた人。


あんなに優しい人が、あれだけで怒るはずがないということ。



そんな優しい彼だからこそ、自分は惹かれてしまうのだと。




『城市 譲』



そう表示された彼の名前と、携帯の番号と、メールアドレス。


それを指でなぞってみました。




携番とメアドを交換しようと言われた時、麻尋はほんとはすっごく嬉しかったのです。



元来の性格ゆえに、嫌そうに。


それでいて淡泊に振る舞ってしまいましたが、ほんとは心臓がドキドキうるさいくらいだったのでした。




(……いつか自分から、好きだって告白しなおしたいなぁ、)



素直じゃない上に、奥手な麻尋にはメールを送る勇気なんかありません。


それでも、ただ携帯の画面に映る彼の名前を眺められるだけで幸せでした。




「……ゆずる、くん」



ひとりでぽつりと呟くのは、大好きな彼の名前。




きっと、今日も彼の夢を見るのです。


夢の中の自分は、素直に彼と話ができます。



そんな自分を明日の自分に重ねながら、麻尋は静かに目を閉じました。




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