くしゃり、と譲が自分の髪を掻きました。



「はーっ、ほんと…ずるいよね、桐谷は」



怒られるのだろうか。


麻尋の胸がちくりと痛みます。



自分はなにか、ずるいと思われるような行動をとってしまったのだろうか。



これ以上、譲に嫌われてしまえばもう終わりです。


それでも麻尋には、なにが原因なのかよく分かりませんでした。




「あの……?」


「オレさ!もうずーっと、桐谷が好きなわけ!」


「え?」


「桐谷のたまに見れる、超レアな笑顔にやられたの!」




譲がなにか喋っています。


全てが麻尋へ好意を寄せてくれているように聞こえるのは幻聴なのでしょうか。




(…私の笑顔がレア?)



そんなこと、ある訳がない。


だって彼の前に出てしまえば、自分の頬は緩みっぱなしなのだ。



私なんか―…




むに、と彼の長い指が麻尋の右頬をつねりました。


痛くなんかないのに、全身が痺れていく感覚です。




「私なんか、って思ってんだろ」


「なんれ…?」



上手く発音できないのは、彼の指のせい。



「桐谷は分かりにくいけど、自分を卑下してるときはよく分かるよ」


「………?」



不思議な話だ。


普段の私は分からないのに、自分を卑下する私はよく分かるなんて。




麻尋は、自分の胸が熱くなるのを感じました。



よく分からないけど、やっぱり自分を見つけてくれるのは彼だけ。


だったら、そんな彼を1番に見つけられるのは、自分で有りたい。




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