初秋の学校は、少しひんやりとしていました。
(よかった…)
運よく、朝のホームルームが終わった頃だったのです。
騒がしい教室の中で、誰も麻尋に気付く者はいませんでした。
「梨々!」
「…まっひー!どしたのー?めずらしく寝坊?」
「その話はまた後でする!…城市くんは?」
教室を見渡しても、彼の姿が見つからないのです。
梨々も教室内をきょろきょろと見渡して、首をかしげました。
「あっれー?城市くん…そういえば朝からいなかったけど?」
「そうなの?」
まずい、麻尋はそう思いました。
譲に気持ちを伝えたくて来たのに、彼がいないなんて話になりません。
(探さなきゃ…)
そう思ってはいるものの、麻尋には譲の行きそうな場所が分かりませんでした。
(テニスコート…?いや、でも違う気がする…)
だって、彼は授業をサボるような人じゃないのです。
そんな彼が行きそうな場所。
(全然、わかんない…)
麻尋がやっとの思いで振り絞った勇気も、枯れてしまいそうです。
どうしてこうも上手くいかないのでしょう。
校内を歩き回っていた麻尋は、ある部屋の前で立ち止まりました。
そうだ、ここなら。
彼をいつも見つめていたここなら、麻尋に何かいいヒントをくれるかもしれません。
何回、通いつめたか分からないこの場所。
古い紙の匂いで、なんだか懐かしいような独特の匂いが麻尋を迎え入れました。
―…そう、彼女が訪れたのは、図書室だったのです。
少し湿っぽい空気が麻尋を落ち着かせてくれるようでした。
「……はぁ、」
ひとつ、大きく深呼吸をしました。
それから、ゆっくり室内を見渡してみます。
いつもの優しい司書さんはどうやら不在のようです。
(やっぱり、いる訳ないか)
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