麻尋が初めて譲を見かけたのは、高校の入学式でした。
(綺麗な、男の子…)
違うクラスの列に並んでいた彼に、麻尋は目を奪われたのです。
「譲!」
「おー!よっしー!」
“ゆずる”
そう呼ばれた彼は朗らかに笑い、手をひらひらと振ります。
そんな彼の周りにはたくさんの人が集まっていました。
(友達いっぱい…)
麻尋にはないものを、たくさん持っている譲。
それだからこそ、麻尋は彼に惹かれてしまったのです。
次に見たのは、表彰台に立つ彼の姿でした。
入学してすぐに、持ち前の運動神経を発揮して、部活で結果を残した譲は軽い有名人だったのです。
(すごい…)
「城市ってかっこよくない?」
「思うー!彼女、いんのかな」
彼の知名度が上がるたびに耳にするようになった会話。
(いないって、梨々が言ってた)
そんな会話を聞くたびに、麻尋の中で醜い嫉妬が生まれるのです。
(最初にかっこいいって思ったのは私だよ)
話しかける勇気もないくせに。
そのくせ、当たり前みたいにやきもち妬いてバカみたい。
何度も諦めかけた恋でした。
届かない、自分が傷付くだけの恋なのです。
“桐谷さん?”
初めて名前を呼ばれた時の麻尋の気持ちなんて、彼が知る訳ないのです。
“おはよ、桐谷”
彼に挨拶をされただけで輝いて見える自分の世界が、麻尋は信じられませんでした。
“―…好きだよ、オレと付き合ってほしいんだ”
でも、それでも。
自分が傷付くだけでも、傷痕が残るだけの恋でもいいのです。
彼から付けられる傷痕なら、喜んで受け入れます。
だから、今度は彼に輝いた世界を見てもらいたいのです。
自分が見た、あの世界を。
震える程の喜びを。
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