腕を大好きな人に掴まれているのに、苦しいのはなんでだろう、
この手が振り払えないのはなんでだろう、
王子は浅はかだ。
ツンデレラを追いかけて何が起こる?
これじゃ、ハッピーエンドにはならないよ。
「……泣くほど、嫌だった?」
「…………ないて、ない」
麻尋は大きく息を吸いました。
微かに、その肩は震えていました。
その光景に、譲がふっと自嘲します。
「―…ごめんな、もういいよ」
麻尋は、びっくりして顔を上げました。
彼は今、なにを言った?
頭の中がぼんやりと霞んでくるような感覚でした。
(悲しそうな顔…?なんで?私、傷付けるようなことした…?)
麻尋には譲がなにを言っているのか、よく分かりませんでした。
「無理して付き合ってくんなくていいから」
「……は?」
「桐谷、オレといても楽しくないっしょ?」
(…楽しく、ない?)
どうしてそんな考えに行き着いてしまったのだろうか。
だって、自分は彼と一緒にいれるだけで幸せなのに。
「……っ、」
そんなことない、そう言いかけて麻尋は目を見張ります。
目の前の譲の顔に浮かんでいたのは、悲しそうな笑顔でした。
「……どういう、意味」
麻尋の喉がごくり、と鳴りました。
(聞きたくない……聞かなきゃ……でも、嫌な予感がする…)
「別れよ、って意味」
跳ねる動脈。
全身の血液が逆流していくような感覚でした。
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