麻尋の目の前で、譲に抱きついた女の子。
麻尋は、その子に見覚えがありました。
(………あ、)
「桐谷さん、おはよー」
「…どうも」
「おい、マジお前帰れ。離れろって!」
「やぁーだぁー」
小さな子が甘えるように譲にすがりつくその姿は、昨日図書室の窓から見た人物と同じ顔でした。
それを譲は力ずくで引きはがそうとします。
「てか、昨日譲くんが言ってたこと、ほんとだったんだね!」
「だからその話は昨日で終わったでしょ」
「私、譲くんの嘘かと思ってたからさー」
麻尋の知らない話が目の前で繰り広げられていきます。
ふたりの中で、麻尋は完全に空気でした。
(多分、わざとだ)
この人はきっと、自分の前で分からない話をして孤立感みたいなのを味あわせたいんだと思う。
(この人もきっと、城市くんが好きなんだよ、)
優しい王子はモテる人です。
そんな人がどうして自分を選んでくれたのか、ツンデレラにはよく分かりませんでした。
だって、彼は王子様。
自分はツンデレラ。
住む世界は、確実に違う。
「桐谷さーん?どうしたの?遅刻しちゃうよー?」
彼女から麻尋へと発せられた言葉には、棘がありました。
それは麻尋にとって、その言葉はまるで自分の居場所はないんだと言われているような気分でした。
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