そして、朝。
いつもの風景。
犬の散歩をする隣の家のおばちゃんだったり、ゴミ捨てに行ってから出勤するサラリーマンの姿だったり。
……だけどそんな中、いつもと違う光景がひとつだけありました。
それは―…
「桐谷!」
(えええええ!?)
麻尋が小さい頃、よく遊んだ公園に、譲の姿があったのです。
「なっ、なんで!?」
「一緒に学校行こうと思って!」
(…マジで?)
麻尋は、嬉しいのか緊張しているのかよく分からなくなっていました。
だって、朝から譲が自分のことを迎えに来てくれたのです。
まだ夢を見ているのかと軽く頬っぺたをつねってみたのですが、残ったのはしっかりとした痛みでした。
(…夢、じゃない、)
現実を確認した麻尋に襲ってきたのは極度の緊張。
麻尋の心臓は、譲の前に出ると穏やかではいられなくなるのです。
「…桐谷?頬っぺたなんかつねってどーしたの?」
「……なんでもない、」
「そ?でも、2丁目ってなんかすごいね!住宅街って感じ(笑)」
「……あっそ」
麻尋は、ぷいと横を向いてしまいました。
でもそれは、決して拗ねたり怒っているのではありません。
(―…城市くん、かわいい!住宅街って…実際、住宅街だし…!)
笑いと真っ赤な顔を曝してしまわないように必死だったのです。
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