重い沈黙が続いていました。
口を開いたら、きっとまた可愛くないことを言ってしまう。
城市くんに、もっと嫌われる。
嫌われるのはこれくらいで充分だ、
これ以上、自分を嫌わないでほしい。
そんな思いから、麻尋は口を固くつぐんでいました。
(もういいから、あっち行って…)
“了解ー!教卓に出しとくね”
“えっ……あ、うん……”
“おい、よっしー!これ教卓だってー!他の人もねー”
譲は左手で持っていたプリントをみんなに見せつけるように麻尋に背中を向けます。
そして、もう1回麻尋へ向き直ると、何事もなかったかのように優しく微笑みかけてくれました。
“桐谷さん、ありがとー♪”
(違うよ、自分はなにもやってない…)
全ては、譲本人がやったことなのです。
(優しい、優しい人………)
麻尋は、いつも思うのです。
この時が、自分が本格的に恋を実感した瞬間だと。
もうこの時点で、自分は譲が誰よりも優しい人だと知ってしまったんだということも。
.

