とりえはこの頭脳だ----


金もない、身よりもない・・



そんな境遇のなかで、彼の頭脳だけが


秘められた宝のようにひそかに息づいていた。




参考書は、近所からもらったものだった。



今の彼の財政状況では、学校での最低限必要なものを
そろえるので精一杯だった。




公立高校といっても、色々と金が要った。





中学校三年生で施設をでてから、
この四畳半のアパートで生活を続けている。




風が吹けば窓はがたがたと鳴り、
地震がきたらつぶれてしまうかと思われる、
そんな古小屋のような家だ。




この小さな古い家で4月から一人生活を始めた。



乾ききった冷たい空気。殺風景な部屋で寝起きし、学校に行く。




学校から帰るとすぐさま工事現場のバイトに行く。



そんな毎日だった。
でも彼には楽しみがあった。



「勉強」だった。



勉強は、得意だ。



一度勉強したことは頭から絶対に抜けないし、
新しいことを理解するのも人より断然に早かった。