あの頃のあたしには、そんなこと全然わからなかった。
ただわかるのは、拓弥はどんなものを犠牲にしてでもあたしを手放したくなかったんだということ。
拓弥は…誰よりもあたしを想ってくれていた。
それだけは変わらない。
しばらく過って、来たメールには
『俺は…幸せじゃないな
まだ美緩を想ってる自分がいるから…』
そんな曖昧な言葉、今のあたしには届かないよ…。
『ありがとう♪
でも、前向かなきゃダメだよ??』
ごめんね、拓弥…。
拓弥の思いと同じように
あたしの遼への想いは強いんだ。
ごめん……
ごめんね…
もうあの頃には戻れない。
あたしは前を向いた。
そして、幸せを見つけた
だから
拓弥にも前を向いてほしい。
笑顔で毎日を過ごしてほしい。
それだけだよ…
携帯を閉じる。
家のドアを開け、ほんのり雪が積もる道に出る。
そしてあたしは携帯を
高く…高く…
空に向かって放り投げた。
―…ポスッ
雪の上に落ちた音がした。
サヨナラ…拓弥。
あたしは世界一の幸せ者だった。
幸せになってね、
大好きだった人…
あたしはもう大丈夫だから…
心配しなくて大丈夫だよ
これからきちんと自分の道を
歩いていくから…
後ろは振り返らずに。
遼と一緒に……
マンションに戻ろうとした、その時
「…あのぉ………」
と呼び止められた。


