「美緩…?」
目が覚める。
「ふえ…」
「泣いてんの?」
綾音が言う。
首を横に振ろうとしたとき涙が綾音の指に落ちた。
それはキラキラ輝いて肌に染み込んでいく…。
「ほら、泣くなって…」
綾音が指で涙をすくう。
俯くあたし。
千葉での思い出が次から次へと溢れて。
あたしの心は今にも全てを失くしてしまいそうで…。
「苦しいよ…」
過去を思い出すと辛くなる。
だから今を大切にしたいと願う。
お父さんはあたしとお母さんと奏斗と陽菜を捨てた。
そして、楽な道を選んだ。
お父さんは今、楽しいかもしれない…。
けどさ…
捨てられたあたしたちはいつだって楽しくなんかないんだよ。
まわりに同情の目で見られて…。
真実を話した途端、離れてくの。
『あたしが力になるよ』
って嘘、何度も言われて…。
そして、世間は捨てられたあたしたちを口を揃えて
『可哀想』って言う。
なんで?
どこが可哀想なの?
その度、あたしは可哀想なんかじゃないって思う。
可哀想なのは……
あたしたちを捨てて楽な道を進むことしかできなかったお父さんじゃないの…?
お父さんが望んでいたものじゃないの…。
あたしたちを捨ててまでしたかったものじゃないの?
お父さんの理不尽な秤には、あたしたちかもう1つ。
それはあまりにも
理不尽すぎて、絶対にあたしたちが望む方に傾くわけのない秤。
どちらかを選ばなくてはいけない…。
なんて思うけど、その運命なんかお父さんが決めるんだ。
あたしたちを選んでもう1つを消すことはせずに、もう1つを選んであたしたちを捨てる。
それが運命。
どんなに願っても、叫んでも変わらない運命。
お父さんの決めた、理不尽な運命。
だけど…まだお父さんを信じたかった。
またいつか、あたしたちを選んでここに戻ってきてくれるって……。


