約束どおり、あたしの部屋に遊びに来た羽奈ちゃんを奥に通す。
「へぇ、案外片付いてるね」
「まーねー。あんまりおっきい物を持ってこなかったから」
リビングを見渡しながら、羽奈ちゃんは素直な感想を聞かせてくれた。
羽奈ちゃんは既に部屋着らしき服に着替えている。
それに比べてあたしは、輝くんの部屋を見つめ、琢也のメールで悩み、着替えることを忘れていた。
新しい制服に新品早々、皴が着いちゃ嫌だなと思い、あたしも着替えようかなって、頃だった。
「ちょっとさ、あたし着替えてないからあっちの部屋で……─」
「ねっ、心結は藤下くんの部屋、どこか知ってるの?」
ソファーから立ち上がろうとしたあたしの腕を掴み、唐突にその名前を出した。
羽奈ちゃんはニヤっとしてあたしを見上げる。
奥二重の瞳が、あたしを捕らえて離さない。
半腰状態で、輝くんの名前を聞いちゃったあたしは……──
「え?ごめん聞こえなかった。輝くんの部屋が、何?」
座り直してその話に食い付いちゃったじゃないかああああ。
輝くんの話になると、ついつい…ね。
我のことを捨てて、のこのこ話にのめり込んでしまう。
羽奈ちゃんはそんなあたしを見て、「食い付くと思った」と、口角をあげた。
「藤下くんの部屋、ここの階にあるって噂だよ?」

