「まじ銀のつばかかったしー」
「あいつ、唾とばしすぎなんだよ」
「口閉じさせろよ」
席が前列になっていた子たちは、口をそろえてそんなことを言う傍で、あたしは真っすぐに廊下へ出る。
銀の話も少し長引いたけど、他のクラスと同じタイミングで終わってくれたので、軽く感謝。
トイレに行くふりをして、隣の教室や、もっと遠くの教室を覗いてみた。
知らない顔がいっぱいで、なかなか見つからない。
ゆっくり歩きながら覗いていたつもりだけど、あっという間にトイレに着いちゃう。
そしたら、またゆっくり歩きながら帰らないと。
それが少し憂鬱に感じて、ふと顔を上げた、その時だった。
「ねぇ」
聞いた覚えのある声に身体が固まった。
背筋に鳥肌が立った。
瞬きができなくなった。
だって後ろから声が聞こえた、その主は何を言おう
ツンデレ王子様だったんだから。

