「関係ないお前はだまってろ!どっかいけ!」


「おばさん声がでかいんだよ!」


待ち受けていたのは、完全に頭に血が上っているお母さんと、二杯目のワンカップを一気に空にして、既に訳が分からなくなり始めている親父のセリフのコラボレーションだった。


「綾瀬家withクレイジー」


心の中でそう名付けると、あたしは一言も言葉を発せず家をでた。


その足で近所のドラッグストアに向かう。


もういいやと思った。

良ちゃんも、結城広恵も、親父も、お母さんもみんなあたしの敵だ。

あたしは一人だ。

みんなの邪魔者だ。

ならいいよ。


ドラッグストアで、ブリーチ剤を買った。

一番明るくて、パッケージのモデルの女の子の髪がキチガイみたいに黄色いやつ。


走って家に帰ると、黒いTシャツに着替えて、首にタオルを巻いて、お風呂場に直行した。


胸が高鳴っているのを感じる。


ブリーチどころか、あたしは今まで髪の毛を茶色くしたことすらない。


説明書を読んで、ブリーチ剤を丁寧にセミロングの髪に塗る。


顔につかないように、ゆっくり、慎重に。


お風呂場に美容院のようなツンとした匂いがたちこめる。


溶液を塗ってから20分放置と書いてあったから、あたしは30分放置することにした。


「ちょっと奈美、なにしてるのよ」


携帯をいじりながら時間をつぶしていると、お母さんが洗面所に入ってきた。