「いいの?あいつのとこ行かなくて」


そう言った遼平の表情はよく見えなかったけど、淡々としたその口調からは無表情な遼平を連想させた。


あたしは口も足もまるで壊れたロボットみたいに硬直してしまって、黙ってそこに立ち尽くしていた。


「あの男ずっと待ってたよ。お前のこと」


遼平がまた淡々としゃべった。


違うの、遼平。
あたしが探してたのはあなたなの。


時が止まってしまったかのように、ずっしりとした鉛のような時が過ぎる。


ただ雪はひたすら時を刻みながら舞い落ち、降り続く雪だけが唯一、時の流れているのを証明しているようだ。


なんで言えないんだろう。
たったの一言なのに。
「遼平のことが好き」
って。


たったのそれだけなのに。


焦る気持ちとは裏腹に、寒さと緊張で凍りついたあたしの口は動く気配を見せなかった。


「じゃあな」