『あなたは、物凄く愛されているの。自信を持っていいのよ』
「なん…で……」
自然と出た私の言葉は、美春のお母さんには届かない程小さいものだろう。
何だか視界が歪むような気がするが、ただじっと美春のお母さんを見つめた。
『子供はね、名前を両親からもらった時点で、一番最初で最大の愛情をもらっているのよ』
……名前…?私の…“もも”と言う名前?
『桃には、大きな固い種があるでしょ?周りには優しい甘さのある実があって……そんな強い芯、心を持った、桃のように種は強くて人には優しい…あなたの存在だけで人を笑顔にできるような、そんな優しい強い人になってほしいって。ご両親から聞いたのよ』
そんな意味…あったの?
初めて知った自分に付けられた名前の意味に、衝撃を受けた。
歪む景色が、スッとクリアになる。
ポタッと手の甲に落ちた水滴は、何だか生ぬるく、熱を持った頬が何かの道筋だけ冷えていくようだ。
『感情を出す事を恐れないで。素直なももちゃん…素敵よ』
ポタポタと手の甲に落ちてくる水滴を気にする事もなく、濡れた頬を拭う事もできないまま、息が詰まるような感覚に戸惑う事もなく、ただじっと美春のお母さんを見つめるしかできない。
『幸せになりなさい。私達みんなも、願っているわ。美春なんか特にね』
静かに美春のお母さんの頬を伝う涙が、とても綺麗だった。
初めて、人の涙が綺麗だと思った。
溢れ出しそうなモノが、すぐ手前まで迫ってきていて、私の心を乱そうとしている。

