いちえ





途端に向けられるたくさんの声。


そのどれもが、私には意味する事なく耳に入ってくるだけで、思わず立ち上がらされた瑠衣斗の腕をグッと掴んだ。



あぁ…恥ずかしい。

何でだろ、何でこんなにも恥ずかしいんだろう。



顔が段々と熱くなり、体中を血液が回るように、耳の後ろがゴオゴオと音を立てる。



「ももらしくねえじゃん。どうしたんだよ」



ふわりと苦笑いする瑠衣斗に見つめられると、シュンとしちゃいそうになる。


私の握りしめていた手を瑠衣斗によって解かれ、今度こそ胸がキュッとする。




こんなにたくさんの知り合いの前で、ひょっとして私迷惑掛けちゃった…?



不安がどんどん胸の中に広がる私を、突然瑠衣斗が腰に腕を回して抱き寄せる。


頷きかけていた私は、驚きのあまりよろけてしまい、瑠衣斗の胸に飛び込む形になってしまった。


えっ…あれっ。何が起きてるの…??



途端に、拍手や指笛が飛び交い、ハッと意識を覚醒させる。



「っ……る、るぅ!?」



そんな中、慌てて顔を上げ、逃げようとする私に向かい、瑠衣斗が囁くように私に耳打ちする。



「そんな顔すると…いじめたくなるだろう?」



とろけるような甘い声に囁かれ、身動きすら取る事が難しくなる。


まるで呪文でもかけられたように、私は大人しくなってしまう。



はい?そんな顔って…どんな顔?



ポカーンとする私をよそに、瑠衣斗は私を抱き寄せたまま笑顔で前に向き直る。


その横顔を見つめるしかできない私は、何の感情もなくただ抱き寄せられていた。



「俺の彼女のもも」



瑠衣斗の言葉は、周りを一瞬にしてしんとさせた。


でもそれはものの数秒で、部屋中の空気が揺れる程、たくさんの驚きの声に包まれる。



言われた言葉の意味が分からず、頭の中でその言葉を繰り返す。


ゆっくりと繰り返す中で、ようやく意味の分かった私は、今度こそ茹で蛸のように真っ赤になるハメになった。



沢山のどよめきと歓声の中で、本気で倒れそうな私を、瑠衣斗は抱き寄せたまま離そうとはしなかった。