「…あら?瑠衣じゃない」
「…久しぶり」
「本当にそうよお、あんた顔くらい出しなさいよ」
…え!?るぅのお知り合い!?
驚く私をよそに、女将さんのような人が瑠衣斗を驚いた目で見つめる。
年齢からして、瑠衣斗のおばさんと変わらないくらいだろうか。
綺麗な淡い鶯色の着物が、しっくりと似合うそのたたずまいに、丁寧に纏められている黒髪。
そんな姿を凝視していた私に、その女性の視線がふと向けられ、予想外に固まる。
「こちらは…噂のももちゃん?」
「え…?あの…」
…噂…って、噂されるような話題提供をした覚えは……てゆーか私、噂されてるの?一体どんな…。
「噂って……どんな噂だよ」
私の疑問を代弁してくれたような瑠衣斗に、挨拶をするタイミングを逃す。
何だか落ち着かない私を、その女性がふわりと笑って見つめる。
穏やかで優しいその表情に、気品の良さが漂う。
「あの悪名高い瑠衣を、手名付けてる都会の女の子って、あなたよねえ!?」
「手名付ける…ですか?」
私…どう思われてるんだろう。
思い切り引きつる顔を、今は隠す事なんてできずにいた。
否定するべきか肯定するべきかも、どちらがいいのかさえ判断できない。
「俺は猛獣か何かかよ」
「あら。違うの?」
「…散々な言われようだな」
確かに。
でも、何だか納得できてしまうから驚きだ。
「まあまあ、立ち話もなんだから、部屋まで案内するから上がって」
そんな言葉でようやく話を区切った所で、私と瑠衣斗はその女性の後に続いたのだった。

