いちえ




言われて、その時の出来事の中で、慶兄と瑠衣斗が話をしていた事を思い出した。


あの時…そんな事話してたんだ。


そんな私の考えを余所に、瑠衣斗が思い出すように口を開く。


「それから…まあ…いろいろはしょるけど、2人が付き合うようになって………」


慶兄は、私に対して、リハビリと言った。


私がるぅを好きと分かっていて、それでも付き合ってもらうと。


「もう、離れようと思った。でもアイツが…ももを支えろと。守ってやれと。離れるなと。最高に上から目線で」


何だか2人のやり取りが想像できて、思わず頬がゆるんだ。


慶兄は、最初から私の気持ちも知っていて……るぅの気持ちも分かっていて、そう言ったのだろう。


慶兄の最大で最高の優しさに、涙が溢れる。



「最初は嫌がらせか何かとしか思えなかったけど」



もう言葉を発する事も、頷く事すらできない。


代わりに、どんどん溢れてくる涙で、瑠衣斗の肩を濡らした。


「でもやっぱ諦めきれねーし…いつか奪ってやろうって思ったり」



何だか複雑な兄弟愛だけど、慶兄は瑠衣斗の気持ちを分かっていて私と付き合ったんだ。


そして私が、素直になれるように…。気持ちを言葉に出せるようになるように。


リハビリの意味が初めは分からなかったし、突然の別れの意味も分からなかった。


でも今こうして、本当の意味が分かった気がした。



「でも、慶兄と付き合ってから、ももには好きな奴が居る訳じゃねえのかなって思った。だから…何つーの?好きにさせてやるって決めてやった」


「何それ…。本当に、るぅってよく分かんないね」



慶兄のリハビリ…ばっちり私には有効だったみたい。



「分かんねーでいいよ…俺の考えてる事がももにバレてたら、もうももの顔なんて見れねーよ」