いちえ




「え?それって…私に?」


「もも以外誰が居るんだ」



はぁ、と大きく溜め息をついた瑠衣斗は、そのまま私をギュッと抱き寄せる。


優しく抱き締めている腕は、私を硝子細工か何かのように、壊れ物を扱うように大切そうに抱き止めている。


「だから、諦めようかとも思った。応援してやんねーと…って」


「るぅ…」



顔は見えないから、どんな表情をしているかなんて分からない。


胸に響く瑠衣斗の甘く低い声と、すぐ耳元の声に、胸が切なくなる。


「そしたら慶兄と付き合いだすし」


「それは…」



どんな気持ちだったんだろう。

もし私が瑠衣斗の立場だったら……。


そう思うと、胸が締め付けられる程痛い。


でも、慶兄には感謝してもしきれない。

私にとっては、慶兄と付き合った事は、本当に良かったと思っているし。


「でも、慶兄から直接話は聞いてたから」


「…話?どうゆう事?」


「宣戦布告されてたしな〜」


「宣戦布告?」



ますます意味の分からない私は、さっきから驚いてばかりな気がする。


何だかんだ、すれ違っていただけなのかもしれない。

でも、すれ違っった差がどんどん広がって、物凄い遠回りになってしまったようだ。


「春に海行った時。俺がももの事好きだって事、慶兄に見破られてた」