いちえ




どうもこうも…何だかすごい所来ちゃった……。



「……なにも。」


「何もなさそうには見えないけど……」



もう姿が見えなくなってしまった龍雅と宗太に、何だか置いてきぼりにされてしまったような気になってきた。


ふと、いくつもの私達の靴が並べられている玄関に目を向けると、“ももちゃん”が大きな舌を出して佇んでいる。



……ももちゃん…は、上がってはこないのかな?




そんな私の視線に気付いたのか、瑠衣斗がはっとしたような声を出す。


「あ、もも悪い悪い。足拭いてやるな〜」



荷物を縁に置いた瑠衣斗は、備え付けてあったタオルを手にすると、はい、手。と言いながらももちゃんの前足と後ろ足を拭いてやった。



一通り拭き終わると、勢い良くももちゃんが廊下へ飛び乗った。


……お利口さん…。



「ほら、行くぞ」


「あ、うん」



少し歩くと、すぐある扉の開いた部屋の前まで来た。


中からは、いつもの調子を取り戻したような龍雅の声が聞こえる。



そっと中を伺うようにのぞき込むと、大きな立派な足の短い木のテーブルを取り囲むようにして、宗太と龍雅、そして由良さんが座っていた。


「あ〜くたびれた〜」


そう言いながら、ドカドカと部屋へ入って行く瑠衣斗に、慌てて付いて部屋へと入る。


「父さんと母さん、もうすぐ帰って来るって」


「ふーん。もも、座れよ」



ドカッと腰を下ろした瑠衣斗は、立ち尽くす私に向かってそう声を掛ける。


が、私は、



……どっちのももでしょか。



と、思いながらも瑠衣斗の隣へと腰を下ろしたのだった。



そんな私と同じ名前のももちゃんは、私が腰を下ろした事を確認したように、私のそばまでやって来て、すぐ脇に伏せたのだった。



「珍しいじゃん。ももが瑠衣じゃなくて他の人にベッタリなんて」